4月
30(土) サイフのなかの1円玉
店員さんがレジを打っている間、ぼくはポケットから小銭いれを取り出し、中の1円玉をかき集める。今日は7枚だった。ぼくは1円玉を7枚握りしめて、清算が終わるのを待つ。
「1217円でございまぁ~す」店員さんがぼくに伝える。やったぜ、財布の中の1円玉を全部つかうことが出来た。ぼくはココロのなかでガッツポーズした。
こうして文章にすると、ずいぶん小さい事で喜んでいるみたいだ。でもこれはぼくがスーパーマーケットでいつもやっている密かなイベントです。要するに、サイフの中の1円玉を減らしたいんです。4円持ってるときは支払う金額が×××4円になると嬉しい。9円持ってるとき金額が×××9円だと喜び最高潮であります。
ぼくの行きつけのスーパーは、買い物袋を持参すると2円値引きしてくれる。この制度が事態を複雑にしていて (と言うほど深刻なことではないですが )、合計金額を聞いて、よし、1円玉つかい切ったぞ、と内心ほくそ笑んでいると、店員さんが「買い物袋ご持参ありがとうございまぁす、2円お引きいたしましてぇ~」あとから言われてがっかりする。ぼくはスーパーで買い物するときは買い物袋を持って行くのだけど、こういう時は値引きされてもあまり嬉しくない。どちらかというと、値引きはいいからおれに1円をつかわせてくれよ、とまで言いたくなる。
でもなんでそんなに1円玉を避けるんでしょうかね。1円を1億枚貯めたら1億円なんだけどな、リクツでは。
24(日) もうすぐゴールデンウィーク
今日はいい天気ですね。すこし風が強いけど行楽日和です。
来週末からゴールデンウィーク。連休前の晴れた日曜日、今がいちばん心たのしい時かもしれない。休みに入ったら何をするでもなく無為に過ごしてしまうだろうから。連休が5日でも10日あったとしてもそれは同じことで、連休の最終日の夕方、ぼくはきっとカレンダーを眺めて呆然としているはずだ。BGMに笑点のオープニングテーマが流れている。
いまぼくはうちからすこし歩いたところにあるファミレスに来ています。窓の外の樹々は緑が鮮やかです。店内は行楽帰りだろうか、家族連れや年配のグループ客でけっこう混み合っている。
となりのテーブルで家族連れがごはんを食べている。若い夫婦と、ちいさな子供がふたり。子どもたちは食べるのにあきたみたいで付け合わせのグリンピースをつぶして遊んでいる。
3歳くらいの女の子がはじめてぼくの存在に気付いたような顔でこっちをまじまじ見ている。ぼくは知らんぷりしてケータイの画面に目を落としていたが、しばらくして顔を上げるとその子はまだぼくを見てた。両親に分からないようにほんのちょっとだけ (0.2秒くらい) 笑いかけたのだけど、なんの反応もなかった。
ちいさな子供にまじまじと見られると、何だか責められているような気分になる。「こんな気持ちのいい日曜日、なんでひとりでコーヒー飲んでるの?」「いやぁごめん、昔からおれこんな感じなんだよね~」
ちいさいこどもの、あの視線を浴びると内省的になるのはぼくだけだろうか?ぼくの心の中に何か後ろめたいことでもあるのかな?
18(月) フタリトモ、ドーモト
もう10年以上前のはなし。
会社で休憩中、事務の女の子と雑談をしていた。テレビの話になり、ぼくが「KinKi Kids って、堂本くんのほうばっか話題になるね。もうひとりの方がカワイソウだね」と言ったらその年下の事務の子、大爆笑してた。
え~、みなさまご存知かと思いますが、KinKi Kids は、ふたりとも堂本という姓でございます。
カワイソウなのはおれのほうかぁ~。はははは (泣)
17(日) 元カノたちが残していったもの
ぼくは40代の独身男です。人に自慢できるような恋の遍歴など持ち合わせていないけど、ささやかながらこれまでに何人かの女の子と付き合い、同じ数だけ別れた。涙でサヨナラ、自然消滅、メールでお別れ、いろいろです。
女の子たちはぼくの部屋にいろんな痕跡を残して消えていく。部屋着、ヘアピン、コーヒーカップ、ホットプレート、CD、バジリコソースの素など。
大抵の人は、恋人と別れたらその恋人に関するモノは処分してしまうのだろう。でもぼくはそうではない。いつまでも元カノたちが残していったものを使っている。いや、未練があるわけじゃないんです。
ジョギングの時にかぶっている手編みのニット帽は、もう10年以上前にもらったものだ。その頃付き合っていた彼女からの誕生日プレゼント。いまでもイヤフォンが振動でズレるのを防ぐためにぼくの頭の上で活躍している。
20代の終わり頃に付き合っていた女の子が忘れていったタオルは、もう15.6年は使っている。縫製がしっかりしているのか、ほつれもない。何度かの引越しを経てなお、いまだぼくの手元に残ってくれている。こうなると付き合ってたカノジョが忘れていった物と言うよりも、ぼくの暮らしを支えてくれる頼もしい雑貨のひとつだね。タオルを使っていてもカノジョのことを思い出すことはない。そもそもぼくは物を大切に使うタイプなのだ。
「えっ、別れた彼女の歯ブラシ、まだ捨ててないんですか?」
テーブルの向こう側、紅茶を飲んでいた女の子が驚いて言った。
この女の子と知り合ったのはつい最近のことだ。共通の友人を通じて知り合った。この日、ぼくらは始めて二人だけで会った。待ち合わせてごはんを食べた後、喫茶店でお茶を飲んでいた。
好きな音楽のこととか、家族のこととか、当たり障りのない話題から始まって、今まで付き合ってきた相手のことに話は及んだ。で、ついうっかり「そういや元カノが使ってた歯ブラシ、まだ洗面所に置きっぱなしだっけ」と言ってしまったのだ。
女の子はちょっとびっくりしたみたいだった。「未練がましい男」と思っただろうか。あるいは「これから交際を始めるかもしれないというビミョーな時にこのヒト何言ってんだろ」とあきれたかな。その両方か。
春が終わると梅雨が来る。長雨で洗濯物がなかなか乾かない、いやな季節だ。梅雨時、着るものがなくなってくると、ぼくは押入れから古い部屋着を引っ張り出して着ている。これもやはり、むかし付き合ってた彼女が忘れていったモノだ。女物の服でも短パンをはいているうちはまだいいが、押入れのさらに奥からチュニックやスモックを見つけたので着てみるとこれがけっこう着心地が良くて、しまいには手放せなくなってしまって. . .
. . . と言うのは冗談です。たぶん。
8(金) ジョガー or 下着泥棒
ここ数年、ジョギングが盛んですね。ぼくは自転車で会社に通っているので、朝早くから熱心に走っている人をよく見かけます。最近のウェアはかっこいいです。女性用ウェアは色もきれい。
早出出勤でまだ薄暗いなか自転車をこいでいると、ぱたぱたと誰かが走って来る。ドキッとしてよく見たらジョギングをしているおじさんだった。かなりがんばっているらしく息が荒い。
最初、その人はジョギングしているようには見えなかった。走っていると言うよりも、まるで誰かに追いかけられているみたいだった。もちろんおじさんはれっきとしたジョガーです。健康のために夜明けの街をせっせと走っているのです。けれども、せまい歩幅でせわしなく脚を動かしているおじさんはどうしてもジョギングしているようには見えなかった。もしこのおじさんが手にパンツををつかんで走っていたら、現場から逃走する下着泥棒に間違えられてしまうだろう。ま、手にパンツを握って走るジョガーはいませんが。
ぼくもときどきジョギングをする。その時はなるべく明るい色のウェアを身に付け、さっそうと走るように心がけている。周りから見ればぼくもおじさんなのだ。耳の穴にイヤフォンを突っ込み iPod を聴いて若ぶったりしてみる。通りすがりの奥さんに「あの人の走り方、ジョギングというより下着泥棒が逃げているみたいね」などと陰口を言われちゃかなわないので。